記事: 校庭が、夜の探究フィールドに変わった日。|小学校で初めて実施した、ひろしまセミの観察Session

校庭が、夜の探究フィールドに変わった日。|小学校で初めて実施した、ひろしまセミの観察Session
2025年、ひろしまセミの観察Sessionでは、広島市立大芝小学校で初めて、夜間のセミの羽化観察会を実施しました。

子どもたちが毎日通う学校。
日中は学び、遊び、友だちと過ごすいつもの校庭も、夜になるとまったく違う表情を見せてくれます。
木の根元から出てくるセミの幼虫。
ゆっくりと幹を登り、羽化する場所を探す姿。
そして、殻を破り、白く透き通った成虫へと変わっていく時間。
その光景を、子どもたちと保護者、先生、地域の大人が一緒に見守りました。
今回の学校開催は、突然生まれたものではありません。
当時、大芝小学校の校長先生だった粟村先生が、4年間にわたり子どもたちと続けてきた「セミの抜け殻集め」の積み重ねがありました。
身近な自然に目を向けること。
子どもたちの「なんで?」を大切にすること。
そして、学校・家庭・地域が一緒になって、子どもの探究心を支えること。
今回、粟村先生に、活動のはじまりから、夜の羽化観察会で感じたこと、学校教育の枠を超えた学びの可能性について伺いました。
お話を伺った人
粟村先生
広島市立大芝小学校 元校長。
在任中、子どもたちと一緒にセミの抜け殻集めを続け、校庭や地域の自然をきっかけにした子どもたちとの対話を大切にしてきました。
01|活動のはじまり
そもそも、セミの抜け殻を集め始めたのは、どんなきっかけだったのでしょうか?
朝、門を開けに行く途中、木にセミの抜け殻が引っかかっているのを見つけたんです。
それを服にひっかけて子どもたちに挨拶をしていたら、登校してきた子どもたちが、口々に「何それ?」と声をかけてきました。
「セミの抜け殻よ」
「見たことない」
「今年セミの鳴き声、もう聞いた?」
そんなやり取りがスタートでした。
そこから、「抜け殻を探してみる?」「見つけたら持ってきてね」という流れになり、子どもたちが抜け殻を校長室前に持ってくるようになりました。
毎年、夏が近づくと「そろそろセミの季節ですね」「今年もやりますか?」「公園でセミが鳴いていたのを聞いたよ」と、子どもたちの方から声をかけてくれるようになりました。
抜け殻集めは、学校の夏のイベントのひとつのようになり、子どもたちとのコミュニケーションのきっかけにもなっていきました。
抜け殻を集めていくうちに、子どもたちはどんなふうに変わっていきましたか?
家族で広島城まで行って、抜け殻を集めてきた子もいました。
でも、それ以上に面白かったのは、今までも身近にあったはずなのに、意識していなかっただけで、公園にもたくさんあることに子どもたちが気づいていったことです。
集める中で、「大きさが違う」「種類が違うんじゃない?」と子どもたちが気づき始めました。
そこで私が「先生も知らないから調べてみて」と返すと、メスとオスの違いを調べて教えてくれる子も出てきました。
集まった抜け殻を「何匹分になったか、100個ずつ袋に入れて数えよう」と提案したこともあります。自然の観察が、算数の活動にもつながっていきました。
「知らない」と正直に言うことで、子どもの探究心に火がついたのだと実感しました。
02|羽化との出会い、命との向き合い
先生ご自身は、それまでセミの羽化をご覧になったことはありましたか?
いいえ。抜け殻集めを始めるまでは、一度もありませんでした。
私の母は虫取りが得意で、素手でセミを捕まえるような人でしたが、私自身は虫が苦手でした。
でも、子どもたちと抜け殻でつながっていくうちに、少しずつ意識が変わっていきました。
実際に参加者と一緒に、神秘的な羽化を観察した時は、とても感動しました。その感動を家族や知り合いにも伝えたくて、夢中で写真を撮りました。
でも、後で写真を見返した時に思ったんです。
写真は、本物の感動を超えることはないなと。
その場で見ること、一緒に見守ることにしかない感動があるのだと思いました。
4年間の中で、特に心に残っているエピソードはありますか?
子どもが、羽化しかけのセミを校長室に持ってきたことがありました。
まだうまく羽を広げられない状態でした。校長室の中の植物にとまらせて見守ることを約束して、「大休憩に見に来てね」とその子には伝えました。
でも、その子が来た時には、羽をしっかり伸ばして、飛び立った後でした。
「元気に巣立っていったよ」と伝えると、その子は満足そうにしていました。
一方で、羽化がうまくいかずに亡くなってしまったセミもいました。
そういう時は、「セミになれるのは全部じゃないんだね」「運のいいセミだけが羽化するんだね」と子どもたちと話して、亡骸を一緒に埋めました。
成功も失敗も、どちらも大切な命の学びでした。
03|夜の観察会へ。親子でワクワクする時間
そんな積み重ねの中で、SATOMACHIから夜間の観察会の話があったんですよね。最初はどんな気持ちでしたか?
「すごい!そんなチャンスが!」という気持ちでした。
4年間、子どもたちと抜け殻を通じて積み重ねてきた文脈があったので、本物に触れるチャンスとして、ぜひ実現させてみたいと思いました。
実際にやってみて、印象に残っていることはありますか?
親が、子ども以上にワクワクしていたことです。
「羽化を見たことがない」という大人が意外と多くて、親が「行きたい」と言ったのか、子どもが「行きたい」と言ったのか、どちらが先かわからないですね(笑)。
でも、家族で同じものに夢中になれる時間や、その価値はとても大きいと感じました。
観察中の子どもたちの目が、すごくきらきらしていました。
真剣な眼差しで羽化を見ている姿を見た時に、この場をつくれてよかったと思いました。
当日の子どもたちは、どんな様子でしたか?
夢中になって羽化を観察する中で、子どもたちが日頃から気づいていたことと、実際の観察がつながっていきました。
「大芝ジャングルの方でよく鳴いている」
「ブランコの近くで抜け殻を見たことがある」
そうした感覚が、観察会当日の羽化の分布と関連づいていったんです。
そこから、「日陰が関係するのかな」「木の種類かな」「カラスに狙われやすい場所があるのかな」と、正解のない問いをみんなで議論する時間が生まれました。
まさに、探究の入口の体験だったと思います。
04|学校教育の枠を超えた学び
先生方の中には、「学習指導要領のどこに当たるの?」と気になる方もいると思います。先生はどのようにお考えですか?
3年生の理科で、昆虫について学習します。
でも、学びはそこにとどまらないと思っています。
セミの観察会は、「総合的な学習」や「探究」に近い活動です。セミをきっかけに、人やモノとのつながりに気づき、「なぜ?」という問いを自分で持ち続ける力を育む活動だと思います。
SATOMACHIのような学校の外の人間と一緒にやることに、どんな意味や価値を感じていただけましたか?
「出会い」が大きいと思います。
今回も、きっかけは卒業生の方との縁でした。子どもに継続的に関わってくれる地域の大人が、子どもの変化に気づいたり、「あれ、どうなった?」と次の意欲を引き出す声をかけてくれたりする。
そういうことが本当に大切だと思います。
学校の先生が、全部やる必要はないのではないでしょうか。
SATOMACHIの取り組みのように、セミに詳しい人、地域の方、大学生など、いろいろな大人が「答えを教えない問いかけ役」として関わることが、今の子どもたちには必要だと思います。
学びは、学校教育という枠だけにはまらないものだと思っています。
校庭が、夜の探究フィールドに変わった日
大芝小学校で初めて実施した、夜のセミの羽化観察会。
それは、単にセミの羽化を見るイベントではありませんでした。
いつもの校庭に、知らなかった命の時間があること。
子どもたちの何気ない気づきが、問いに変わっていくこと。
親子で同じものに夢中になれる時間があること。
そして、学校の先生だけでなく、地域の大人や外部の人たちが一緒に関わることで、子どもたちの学びが豊かに広がっていくこと。
その可能性を感じる一夜となりました。
ひろしまセミの観察Sessionでは、これからも学校や地域と連携しながら、身近な自然を入口に、子どもたちの探究心を育む場を広げていきます。
遠くの森に行かなくても、学びの入口はすぐそばにあります。
校庭も、公園も、まちの木々も、子どもたちにとっての探究フィールドになる。
そんな風景を、広島のまちなかに少しずつ増やしていきたいと思います。







